ーあれー
ぼくは、少し小走りになりながら、黒いふたり組の背中を追っていた。走っている最中に、気づいたんだけど、さっきまで手に持っていたネックレスがない。
ーあら、落としちゃったかなー
走りながら、振り返ってみたけど、それらしきものは見当たらない。というか、ふたりとも歩くのが早くて、なかなか追いつけない。というか全く同じ動きをしているのが不思議なんだけど。ようやく少し追いついたので、後ろから声をかけた。
ーあの、すみませんー
しかし、黒いふたり組は見向きもせず、そのままスタスタと歩いていってしまう。無視された?
ーあのー、すみません!!ー
結構大きい声を出したつもりだった。でもこちらを振り返りもしない。一定のペースで歩き続けている。
ーあれ、聞こえてない?ー
ぼくは黒い二人組の前の方に回ってみた。ふたりとも携帯電話をみているような感じで、歩いている。勇気を出して、肩を叩いてみた。
ーすみません、え?ー
確かに触った感触はあった。けどめちゃくちゃ冷たい。ぼくはびっくりして立ち止まってしまった。さっきみたいに、話しかけてくれることはなく、そのままスタスタと歩いていってしまった。
何が何だか全くわからない状況の中、ぼくはまた白い空間の中に取り残されてしまった。
ー人じゃない?ー
唖然としてぼくはへなへなと座り込むと同時に、目の前に一枚の名刺が落ちていているのに気が付いた。名刺には「株式会社ターミナル 代表取締役社長 山本英治」と書いてあった。
ぼくには全く見覚えのない名前と会社名だった。名刺の裏を見ると、いろんな会社名が書いてあって、CEOだの、理事だの、色々なものが書いてあった。とりあえず、社会的な地位がたかそうな人だ。
ーもしかして、さっきの黒い人の名前かな?ー
パッと顔をあげて周りを見渡すと、もう黒い影は見えなくなってしまっていた。
しかし別の方向に、今度は人影が見える。正確な人数はわからないけど、8〜10人くらいはいそうだ。ぼくはそちらに向かって歩き出すことにした。